地球温暖化が深刻化する今、世界中で温室効果ガスの排出を減らす取り組みが行われています。中でもよく耳にする言葉として「脱炭素」や「カーボンニュートラル」がありますが、2つの言葉はよく似ているものの、実は明確な違いを持ちます。CSR活動を行う上で、これらの言葉を混同しないようにするのが大切です。
この記事では、脱炭素とカーボンニュートラルの違いについて分かりやすく解説します。また、関連する用語や日本政府の取り組み、企業が脱炭素化を進めるメリットや脱炭素化の方法についても紹介します。
目次
1. 脱炭素とカーボンニュートラルの違いとは
温室効果ガス排出量をゼロに近づけ、脱炭素社会を目指すための取り組みが世界中で行われています。各企業にも環境に配慮した事業活動を営むことが求められるようになり、「脱炭素」や「カーボンニュートラル」といった言葉を耳にする機会が増えた方も多いでしょう。
カーボンニュートラルの「カーボン」が炭素を指すことから、脱炭素と同じニュアンスの言葉と捉えている方もいるかもしれません。しかし、2つの言葉にはそれぞれ違う意味があります。
1-1. 脱炭素とは
脱炭素とは、人間が経済活動や日常生活で排出する温室効果ガスを実質ゼロにするための取り組みのことです。一般的には、温室効果ガスの一種である二酸化炭素の排出量を抑制するための取り組みを指します。化石燃料を燃やしてエネルギーをつくる方法に代わり、再生可能エネルギーによる発電を推進することも脱炭素に向けた取り組みの一種です。
今、世界各地で気候変動が原因とみられる自然災害が頻発し、人間をはじめとする生き物や自然環境に対してさまざまな悪影響・損害をもたらしています。気候変動の要因と言われているのが、人間が経済活動によって排出した温室効果ガスです。気候変動を食い止めるためには、脱炭素に取り組み、温室効果ガス排出量を正味ゼロにすることが不可欠となります。
1-2. カーボンニュートラルとは
カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出量と自然などに吸収される量を中立状態、つまりプラスマイナスゼロにすることを指す言葉です。「カーボン」は炭素を、「ニュートラル」は中立を表します。
現在、脱炭素に向けて世界規模で取り組んでいるものの、人間が経済活動を営む中で、どうしても温室効果ガス排出量を削減できない部分があります。そこで、温室効果ガス排出量削減と並行して森林保護や植林などに取り組み、排出量と吸収量の均衡を図るのが、カーボンニュートラルの考え方です。森林保護や植林といった取り組みは、水の保全や生物多様性の維持にもよい効果をもたらすことが期待できます。
2. 脱炭素・カーボンニュートラルと一緒に知りたい用語
社会全体の環境問題に対する意識の高まりに伴い、脱炭素やカーボンニュートラルに関連する用語も多く使われるようになりました。以下では、脱炭素やカーボンニュートラルとともに知っておきたい、地球環境に関するキーワードを5つ紹介します。
2-1. ネット・ゼロ
ネット・ゼロ(Net Zero)とは、温室効果ガス排出を正味ゼロにすることを指す言葉です。ネットには「正味」という意味があり、ネット・ゼロはカーボンニュートラルとほとんど同じ意味の用語として扱われています。
日本におけるネット・ゼロの実現に向けた取り組みの1つとして、「ZEB」があります。ZEBはネット・ゼロ・エネルギー・ビルの略称で、エネルギーの消費量を正味ゼロにする建物のことです。エネルギーの消費量を正味ゼロにすることを目指した住宅は「ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)」と呼ばれます。
また、政府による「グリーン成長戦略」という施策も、ネット・ゼロの実現に向けた取り組みの1つです。グリーン成長戦略では環境問題への対策を企業の成長に向けた取り組みと捉え、基金の創設や税額控除の制度導入といった支援策を用意しています。
2-2. ゼロカーボン
ゼロカーボンとは、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの排出量を、森林などが吸収する量以下にし、実質的な排出量をゼロにすることを指す言葉です。
ゼロカーボンは温室効果ガス吸収量も考慮した考え方であり、基本的にはカーボンニュートラルやネット・ゼロと同じ意味の用語として使われます。温室効果ガス排出量を可能な限りゼロに近づけたいという強い気持ちを表すために、カーボンニュートラルではなくあえてゼロカーボンという表現を用いる企業もあります。
2-3. 脱炭素ドミノ
脱炭素ドミノとは、地域が率先して行う脱炭素に向けた取り組みが、周辺地域にドミノ倒しのように波及し、将来的に日本全国に広がることを意味する言葉です。
環境省は、2050年までにカーボンニュートラルを実現するためには、2030年までの10年間に行う取り組みが重要としています。しかし、全国の地域が一律で脱炭素に向けた取り組みを行えるわけではありません。そこで環境省は、脱炭素に向けて取り組む意欲が高い地域や実現可能性が高い地域を募り、「脱炭素先行地域」に認定しました。脱炭素先行地域が率先して成功事例をつくることで、周辺地域が類似の取り組みを行いやすくなり、やがて日本全国で脱炭素が進むことが期待されています。
2-4. カーボンオフセット
カーボンオフセットとは、温室効果ガス排出量を可能な限り削減した企業・団体などが、自分で削減しきれない部分を埋め合わせるための取り組みや考え方のことです。
個人や企業・団体には温室効果ガス排出量削減に取り組むことが求められますが、事業内容などによっては目標達成が難しいケースがあります。そこで、植林や森林保護、省エネルギー設備や再生可能エネルギーの導入を行い、どうしても削減できない分を埋め合わせるのがカーボンオフセットの考え方です。
カーボンオフセットはイギリスのNPO団体の取り組みから始まり、現在ではアメリカやヨーロッパを中心に活発化しています。日本では二酸化炭素の排出削減量と吸収量を取引できる「J-クレジット」という制度が創設され、二酸化炭素排出量の埋め合わせが可能になりました。
2-5. カーボンプライシング
カーボンプライシングとは、企業などが排出する二酸化炭素に価格をつけ、排出者の行動変容を促す取り組みのことです。二酸化炭素を排出するのにお金がかかることによって、排出量削減に意欲的に取り組む企業が増えると期待されています。
カーボンプライシングの代表的な手法は以下の3つです。
- 炭素税
企業などが排出した二酸化炭素の量に対して課税する制度を指します。 - 排出量取引制度
企業ごとに定められた二酸化炭素の排出量上限を超えた場合、上限を超えない企業との間で排出量の枠を取引できる仕組みのことです。 - クレジット取引
二酸化炭素の削減量を価値とみなして証書化し、売買取引を行うことを指します。
3. カーボンニュートラルや脱炭素に向けた日本の取り組み
2020年に当時の菅内閣総理大臣は、日本が2050年までにカーボンニュートラルを目指すことを宣言しました。この宣言は「2050年カーボンニュートラル宣言」と呼ばれ、2021年には、2030年度に温室効果ガスを2013年比で46%削減することなども表明されています。
出典:資源エネルギー庁「第1部 第2章 第3節 2050年カーボンニュートラルに向けた我が国の課題と取組 │ 令和2年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2021) HTML版」
2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにするためには、脱炭素に向けて日本全体で取り組んでいくことが必要です。カーボンニュートラルへの挑戦は、環境問題への有効な対策となるだけではなく、日本の産業構造や経済社会においても大きな成長につながることが期待されています。
以下では、カーボンニュートラルや脱炭素の実現のために国が行っている代表的な取り組みを2つ紹介します。
3-1. グリーン成長戦略の策定
グリーン成長戦略とは、2050年に成長が期待される14の産業分野に対して、カーボンニュートラルに向けた実行計画を策定し、具体的な目標や見通しを示すものです。洋上風力・太陽光・地熱や次世代熱エネルギー産業、自動車・蓄電池、住宅・建築物など、さまざまな産業分野がグリーン成長戦略の対象となります。
出典:経済産業省「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」
また、目標の実現を目指す企業を後押しするために、革新的技術の研究開発から社会実装までを支援する基金の創設や、金融市場の整備、規制緩和なども行っています。
3-2. 地球温暖化対策推進法の改正
政府は、2021年に地球温暖化対策推進法(温対法)の一部改正を行いました。改正後の温対法では2050年カーボンニュートラルが基本理念として明記され、政策の方向性や継続性が明確に示されています。
また、温対法の改正によって、企業の二酸化炭素排出量情報のデジタル化とオープンデータ化が義務づけられました。加えて、地方公共団体には脱炭素に向けた施策の実施目標の設定が求められるようになります。改正によって、企業や地域におけるカーボンニュートラルに向けた取り組みが加速することが期待されています。
4. カーボンニュートラルや脱炭素に企業が取り組むメリット
カーボンニュートラルや脱炭素への取り組みを考えたときに、コストや労力といったマイナス面に目が行ってしまう企業も少なくありません。しかし、企業がカーボンニュートラルや脱炭素に取り組むと、さまざまなメリットを得られます。以下では代表的なメリットを3つ紹介するので、参考にしてください。
4-1. エネルギーコストを削減できる
バイオマス発電システムや太陽光発電システムなど、クリーンエネルギーを使った自家発電設備を導入して必要な電気を自社で発電・使用すれば、エネルギーコストを削減できるのが大きなメリットです。
また、非効率な設備の見直しや生産プロセスの改善などに取り組むことで、エネルギー使用量を抑えられます。電力をはじめとするエネルギーは企業にとって不可欠であり、経営を続ける限り使用し続けることになります。脱炭素に向けた取り組みにはさまざまなコストがかかるものの、長期的に見れば経費削減につながるでしょう。
4-2. ステークホルダーとの関係をよりよくできる
カーボンニュートラルや脱炭素に取り組んだ企業は、さまざまなステークホルダーから高い評価を得やすい点がメリットの1つです。
例えば投資家の場合、企業が環境問題に対してどのような取り組みを行っているのかを重視するケースは少なくありません。消費者や学生の中にも環境問題に関心がある方は多いため、脱炭素への取り組みを行う企業は人材獲得の面でも有利になりやすいです。また、金融機関でも脱炭素に向けた取り組みが加速しており、融資先の選定基準として環境問題への取り組みが盛り込まれているケースもあります。
ステークホルダーとの関係をよりよくするためには、脱炭素に取り組みつつ、取り組みの内容や自社の考え方を開示して適切にアピールすることが大切です。
4-3. 企業の信頼性アップにつながる
カーボンニュートラルや脱炭素に向けた取り組みは国が推進していることであり、実績を積めば自治体などから表彰される場合があります。取り組みの内容が先進的であれば、各種メディアで取り上げられたり、行政機関から紹介されたりするケースもあるでしょう。環境問題への取り組みが人々の目に触れれば、企業の認知度がアップするだけではなく、信頼性の向上にもつながるのが大きなメリットです。
最近では環境問題に関心を持つ消費者も多いため、企業の信頼性が上がれば売上アップにつながる可能性もあります。
5. カーボンニュートラルや脱炭素に企業が取り組む方法
カーボンニュートラルや脱炭素に向けた取り組みをしたくても、何をすればよいか分からないという方も少なくありません。以下では、カーボンニュートラルや脱炭素に向けて企業ができる具体的な取り組みを4つ紹介するので、一度チェックしておきましょう。
5-1. 自社の二酸化炭素排出量を把握する
カーボンニュートラルや脱炭素に向けた取り組みの前段階として、自社の二酸化炭素排出量を把握することが重要です。最初に自社の二酸化炭素排出量を把握しなければ、脱炭素に向けた取り組みを行っても、どのような結果が得られたかが確認できません。
自社の二酸化炭素排出量を把握するためには、排出量の「見える化」をするのがおすすめです。二酸化炭素排出量の見える化とは、事業や商品の製造を行う中で、各工程およびサイクル全体としてどれだけ二酸化炭素が排出されているかを可視化することです。
二酸化炭素排出量の見える化の方法としては、IoTセンサーを使って排出量を測定する方法などが挙げられます。大切なのは、二酸化炭素排出量を定量的に把握できる方法を選ぶことです。また、「何の、どの部分の二酸化炭素排出量を、誰に向けて見える化するか」を明確にしてから見える化を実施しましょう。
5-2. 省エネ機器や製品を導入する
発電や運輸といったエネルギー起源による二酸化炭素の排出量は、日本の二酸化炭素排出量のうち大きな割合を占めています。日本がカーボンニュートラルを達成するためには、各企業が省エネに取り組むことが重要です。
例えば、以下のような省エネ機器や製品を導入すると、社内で消費するエネルギーを効果的に抑えられるでしょう。
- 高効率な空調設備
- サーキュレーター
- 高機能換気設備
- LED照明
- 低炭素車
- デマンドコントローラー など
デマンドコントローラーとは、空調設備の電力の使用状況を把握し、自動でコントロールする装置のことです。デマンドコントローラーを導入すれば、ピーク電力や通常使用時の無駄・ムラをなくし、電力効率を改善することが可能になります。省エネ機器・製品の導入にはコストがかかるものの、自治体によっては補助金が出るケースもあるので、一度調べてみるとよいでしょう。
また、以下のような取り組みも省エネにつながるため、社内で積極的に推進するのがおすすめです。
- 空調を適切な温度に設定する
- 照明やパソコンの使用時間を減らす
- 使っていない電気製品のコンセントを抜く
- 照明を可能な範囲内で暗くする
- 作業場を仕切りを設置して空調効率を上げる
- 移動の際には公共交通機関を利用する
5-3. 省エネのために設備を更新する
旧型の設備を省エネ型設備に更新することも、脱炭素に向けた有効な取り組みとなります。例えば、古いエアコンを省エネエアコンに切り替えたり、蛍光灯をLEDに交換したりすれば、長期的に見て消費エネルギーを削減でき、脱炭素につながります。
自社に最適な省エネ対策を考える際には、省エネルギーセンターや一部の自治体が実施している「省エネルギー診断」を利用するとよいでしょう。省エネルギー診断を行えば、省エネ化のアドバイスやコストを抑えた運用改善案などを受けられます。また、より省エネ性能の高い設備に更新するために、設備投資計画を立てることも大切です。
5-4. 再生可能エネルギーを利用する
再生可能エネルギーとは、太陽光や風力、地熱といった、自然界に常に存在するエネルギーのことです。再生可能エネルギーは、利用する際に二酸化炭素が発生する化石燃料とは異なり、温室効果ガスが発生しないクリーンなエネルギーとして注目されています。
再生可能エネルギーによる発電方法は、以下の3つをはじめ、さまざまな種類があります。
| 太陽光発電 | ソーラーパネルを使い、太陽光から電力を生み出す発電方法です。 |
|---|---|
| 風力発電 | 風を受けて回転する巨大な風車を利用した発電方法です。 |
| バイオマス発電 | 動植物からつくられる生物資源を利用した発電方法です。日本では、可燃ごみや間伐材、家畜の汚物などをバイオマス発電に利用しています。 |
ソーラーパネルは設置場所を選ばないため、屋根の上や使っていない土地などを利用して太陽光発電を行っている企業・団体も少なくありません。しかし、天候によって発電量が変わるため、安定した電力供給が難しい点がデメリットです。
風力発電もクリーンエネルギーの代表例で、クリーンエネルギーの中では1kWの発電量に換算した費用対効果が高い点がメリットです。ただし、太陽光発電同様に天候に発電量が左右されるほか、台風国である日本では風車のメンテナンスコストが高いデメリットがあります。
バイオマス発電は、業務で発生する可燃ごみや汚物を使って発電が行えるため、再生可能エネルギーの活用だけでなく、ごみ処理問題の解決にもつながる発電方法です。また、天候を問わずに発電が行える点もメリットです。
まとめ
脱炭素やカーボンニュートラルを実現することは、環境問題への貢献にとどまらず、企業のエネルギーコスト削減や社会的な評価向上にもつながります。政府や地方自治体からの支援制度も充実してきており、省エネ設備の導入や再生可能エネルギーの活用などが取り組みやすい状況です。
省エネ対策や再生可能エネルギーの導入は、初期投資こそかかりますが、長期的に見ると経営の安定化にも役立ちます。今後ますます環境規制が厳しくなる中、早めに取り組みを始めれば企業の競争力を高めることができるでしょう。
特に、バイオマス発電は小規模な設備から導入でき、安定して発電が行えるため、再エネ導入の取り組みに向いています。脱炭素・カーボンニュートラル施策を推進したい方は、ぜひバイオマス発電の導入をご検討ください。


