サーマルリサイクルとは?具体的な流れやメリット・問題を徹底解説

サーマルリサイクルとは、プラスチック製品などの廃棄物を焼却し、その際に発生する熱エネルギーを回収・利用するプロセスのことです。プラスチックごみがもたらす環境負荷が問題視される中、日本ではエネルギー資源の有効活用を目的にサーマルリサイクルが注目されています。

当記事では、サーマルリサイクルの概要と他のリサイクル方法との違いから、サーマルリサイクルのメリットと課題まで分かりやすく解説します。廃棄物処理における課題解決や持続可能な社会の実現に向けた参考としてお役立てください。

 

1.サーマルリサイクルとは?どんな方法?

サーマルリサイクルとは、熱を利用して資源を再利用または再生するプロセスのことです。熱や温度を意味する「サーマル(thermal)」と、再生利用や再資源化を意味する「リサイクル(recycle)」を合わせた造語であり、熱回収・エネルギー回収とも呼ばれています。

サーマルリサイクルでは、廃棄物処理の燃焼プロセスにおいて発生した排熱を熱エネルギーに変換して利用します。焼却される廃棄物は主に廃プラスチック類や紙くず・木くずなどの一般廃棄物・産業廃棄物で、従来のプラスチックリサイクルが難しいものや、仕分けが難しいものが対象です。サーマルリサイクルによって回収した排熱は、施設内の発電をはじめ、暖房や給湯、温水プールなどに利用されます。

 

1-1.サーマルリサイクルと他のリサイクル方法の違い

リサイクルには、サーマルリサイクルの他にも「マテリアルリサイクル」と「ケミカルリサイクル」という2つの手法があります。

マテリアルリサイクル廃棄物を新たな製品の原材料として再利用する手法
ケミカルリサイクル廃棄物を化学的に分解して化学原料に戻し、再利用する手法

マテリアルリサイクルとケミカルリサイクルはいずれもサーマルリサイクルが登場する前から存在していたリサイクル方法で、多くの廃棄物はこれらの方法で再利用可能です。しかし、一部のプラスチック製品に関してはリサイクルが難しく、効率的に再利用するための新たな方法が求められていました。

そこで、廃棄物のさらなる再利用方法として発案されたのがサーマルリサイクルです。サーマルリサイクルは、廃棄物自体の再利用は困難ではあるものの、焼却を通じて得られる排熱をさまざまな形で利用することでエネルギーを効率的に活用できるという特徴があります。

 

2.サーマルリサイクルのメリット

サーマルリサイクルの利用は、地球環境に対して多くのメリットをもたらします。ここからは、サーマルリサイクルの主なメリットを4つ、それぞれ詳しく説明します。

 

2-1.異物のある廃棄物も再利用できる

サーマルリサイクルの最大のメリットは、異物が混入した廃棄物でも処理が可能という点です。マテリアルリサイクルやケミカルリサイクルでは、再利用できる廃棄物の種類や形状が限定されます。万が一異物が混じっていた場合は、その異物を除去したり洗浄したりしなければならず、再処理が困難となります。

しかし、サーマルリサイクルは廃棄物を高温で処理するため、異物が混入していても問題なく処理し、エネルギーとして再利用することが可能です。従来の方法ではリサイクルできなかった廃棄物も無駄なく利用でき、環境負荷の軽減に貢献します。

 

2-2.化石燃料の使用を削減できる

サーマルリサイクルでは、主にごみ焼却場に集められた紙類や廃プラスチック類を資源として熱を回収します。特に、廃プラスチック類は紙ごみの約2〜3倍の発熱量をもち、石炭や石油といった化石燃料に匹敵するエネルギー資源として注目されています。

化石燃料は限りある天然資源であり、枯渇するとエネルギー供給の安定性や地球環境に深刻な影響を及ぼします。サーマルリサイクルの推進によって、貴重な化石燃料を温存し、持続可能な社会の実現を図ることが期待できるでしょう。

 

2-3.最終処分場の延命につながる

リサイクルが困難な廃棄物は、基本的に最終処分場で埋め立て処分されます。しかし、最終処分場には限りがあることから、大量のごみを永続的に受け入れることは困難です。サーマルリサイクルを導入すれば、焼却処分を行いながら排熱を活用できるため、埋め立て量を大幅に削減できます。結果として、最終処分場の延命・埋立地不足の問題解決にもつながるでしょう。

また、サーマルリサイクルによる埋め立て量の削減は、廃棄物の排出量を限りなくゼロに近づける「ゼロエミッション」の観点からも有効であり、持続可能性の高い処理方法として評価されています。

 

2-4.メタンガスの発生を抑制できる

廃プラスチック類を適切に処理しないまま放置すると、劣化によってメタンガスが発生することがあります。メタンガスは無色無臭の可燃性ガスであり、温室効果ガスの中でも二酸化炭素(CO2)に次いで地球温暖化に影響を与える存在として知られています。二酸化炭素の約20~25倍以上の温室効果を持つと言われており、地球温暖化対策においてはメタンガスの発生抑制が重要な課題の1つとなっています。

サーマルリサイクルでは、メタンガスの主な発生源となるプラスチック廃棄物を適切に焼却処分することで、メタンガスの排出を効果的に抑制できます。これにより、焼却に伴って発生する二酸化炭素以上の地球環境へのメリットが得られるとされています。

 

3.サーマルリサイクルの課題

サーマルリサイクルには多くの利点がある一方で、いくつかの課題を抱えることも実情です。最後に、サーマルリサイクルの課題を解決策とともに詳しく紹介します。

 

3-1.二酸化炭素やダイオキシンを排出する

サーマルリサイクルは熱エネルギーを有効利用するという面では優れている一方で、プラスチックを焼却する際には、二酸化炭素をはじめとした温室効果ガスやダイオキシンなどの有害物質を排出させてしまうことが問題点となっています。

特にダイオキシンは化学的に安定しており、環境や土壌に蓄積されやすいという性質を有しています。また、発がん性もあることから人体への悪影響も懸念されているほか、燃焼後に残る灰には鉛や水銀といった毒性のある物質が含まれる可能性もあります。

近年の技術力の向上や規制の強化により、有害物質を含む排ガスの排出量は抑えられていますが、完全にゼロにはなっていません。そのため、サーマルリサイクルの推進にあたっては、焼却技術の向上や有害物質の発生を抑制する新たな対策の導入が求められています。

 

3-2.環境負荷の評価が難しい

前述の通り、サーマルリサイクルは廃棄物の再利用やメタンガスの排出抑制というメリットと、焼却処分による二酸化炭素などの排ガスの発生というデメリットの双方があります。

さらに、処理施設の性能や地域ごとの運用状況によって、排熱効率や有害物質の発生量が異なることもあり、環境に対するプラスの影響とマイナスの影響を正確に評価した上で総合的な環境負荷を測定するのは容易ではありません。

こうした背景から、今後はサーマルリサイクルを含むリサイクル全般の環境影響を定量的に把握し、透明性のある形で示すことが求められています。

 

3-3.国際社会ではリサイクルとみなされない

日本国内でサーマルリサイクルはリサイクル手法の1つとして認識されているものの、諸外国では廃棄物を原料として再利用できる形に戻すプロセスを「リサイクル」と定義しているため、焼却処理を伴うサーマルリサイクルは国際的なリサイクルの定義に当てはまりません。

さらに、多くの国ではリサイクルよりもリユース(再利用)やリデュース(廃棄物削減)を重要視しており、廃棄物処理においても熱エネルギーより再生可能エネルギーへの転換が求められています。環境価値に着目した取り組みが世界中で進められている現状を踏まえ、サーマルリサイクルの推進が結果的にプラスチックの利用率を高めているという否定的な意見も挙げられています。

国際的な評価を得るためには、サーマルリサイクルに依存しない持続可能なリサイクル手法への移行に加えて、リユース・リデュースを推進する取り組みも欠かせないと言えるでしょう。

 

まとめ

サーマルリサイクルは、廃棄物の焼却処理において発生した排熱を利用するリサイクル手法です。「異物の混じった廃プラスチック類も再利用できる」「化石燃料の使用削減につながる」などのメリットがある一方で、「二酸化炭素などの有害物質を排出する」「国際社会ではリサイクルとみなされない」という課題もあります。

サーマルリサイクルは、従来のリサイクル手法では対応が難しい廃棄物を再処理するための選択肢の1つです。今後は、国際的評価を得られるリサイクル手法の開発や、リユース・リデュースの推進がより一層重要となるでしょう。

関連記事