企業や自治体において、省エネルギー対策は重要な課題の1つです。しかし、コストや技術面のハードルから、十分な対策が難しいケースも少なくありません。こうした課題を解決する手段として注目されているのが「ESCO事業」です。ESCO(Energy Service Company)事業とは、エネルギーの効率化を目的とし、設備の更新や運用の最適化を専門業者が支援する仕組みを指します。
この記事では、ESCO事業の仕組みや契約方法の種類を詳しく解説します。さらに、導入することで得られるメリット・デメリットや、具体的な導入手順についても紹介するので、ぜひ参考にしてください。
1. ESCO事業とは?わかりやすく解説
ESCO(Energy Service Company)事業とは、省エネルギー化に関する包括的なサービスを提供するビジネスです。ESCO事業者が設備の診断・設計・施工・管理を一括で請け負い、省エネルギー化による経費節減分を発注者と分配する仕組みになっています。また、ESCO事業者は資金調達や補助金活用の提案も行い、初期費用負担を軽減するサポートを提供します。
ESCO事業の特徴は、省エネルギー効果が保証される「パフォーマンス契約」を採用している点です。契約で定めた省エネルギー効果を達成できなかった場合、ESCO事業者が補填しなければなりません。こうした包括的なサービスにより、企業や自治体はリスクを抑えながら効率的なエネルギー管理の実現が可能です。
2. ESCO事業の契約方法の種類
ESCO事業の契約方法には、「ギャランティード・セイビングス契約」と「シェアード・セイビングス契約」の2種類があります。
いずれの契約も、省エネルギー改修による光熱水費の削減分を活用し、ESCO事業者へサービス料を支払う仕組みです。また、契約期間終了後は省エネルギー化による削減分がすべて顧客の利益となる点は同じです。ただし、初期投資の負担者や資金調達の方法が異なります。
以下では、それぞれの特徴を解説します。
2-1. ギャランティード・セイビングス契約
ギャランティード・セイビングス契約とは、顧客が改修費用の資金調達を行い、ESCO事業者が省エネルギー化の効果を保証する契約です。ESCO事業者は設備の設計・施工を担当し、省エネルギー化によるコスト削減分が契約で定めた額に達しなかった場合、その差額を補填します。
この契約方式では、初期投資分を負担するのは顧客です。ESCO事業者への支払いは省エネルギー効果を保証するサービス料のみのため、長期的に見て事業コストを抑えられる傾向にあります。ただし、金融機関などから資金を借りる必要があり、借入リスクを負う点には注意が必要です。
2-2. シェアード・セイビングス契約
シェアード・セイビングス契約とは、ESCO事業者が資金調達を行い、顧客は初期投資なしで省エネルギー改修工事を実施できる契約です。
この契約では、ESCO事業者が金融機関から資金を借り入れ、設備の改修工事を行います。工事完了後、顧客は光熱水費の削減分から、設備費や金利を含めたサービス料をESCO事業者へ支払います。
顧客は資金調達の負担がないため、自治体や資金繰りが厳しい企業でも導入しやすい点が大きなメリットです。ただし、ESCO事業者が資金調達リスクを負うため、契約期間中のサービス料がギャランティード・セイビングス契約よりも高くなる傾向があります。
3. ESCO事業のメリット・デメリット
ESCO事業は、エネルギーコスト削減を目指す企業や自治体にとって魅力的な選択肢です。しかし、メリットだけでなくデメリットもあるため、導入前にしっかりと比較検討しておかなければなりません。以下では、ESCO事業のメリット・デメリットを解説します。
3-1. メリット
ESCO事業導入の最大のメリットは、省エネルギー効果が保証される点です。加えて、資金調達の負担が軽減されるため、リスクを抑えながら省エネルギー対策を実施できます。
まず、光熱水費のコスト削減効果を保証しなければならないため、ESCO事業者は確実にエネルギー効率を向上させる対策を講じます。一般的な省エネルギー改修では、設計・施工・管理を別々の業者が担当し、責任が分散するケースが珍しくありません。しかし、ESCO事業では一括して管理されるため、確実な効果が期待できます。
また、シェアード・セイビングス契約を利用すれば、顧客側の初期投資が不要です。これにより、資金調達の負担を回避しながら省エネルギー設備を導入できるため、企業や自治体は財務上のリスクを最小限に抑えられます。ESCO事業契約期間終了後には、省エネルギー改修による光熱水費の削減分がすべて顧客の利益となる点も、メリットの1つです。
3-2. デメリット
ESCO事業には多くのメリットがありますが、導入に際して考慮すべきデメリットも存在します。
まず、ESCO事業者へのサービス料が発生する点です。省エネルギー効果の保証や包括的なサポートを受ける代わりに、光熱水費の削減分の一部をESCO事業者へ支払わなければなりません。そのため、確実に省エネルギー効果が見込める場合は、ESCO事業を利用せずに独自で改修するほうがコスト面で有利になることがあります。
また、契約期間が長期にわたる点もデメリットの1つです。一般的にESCO事業の契約期間は9~15年とされており、契約期間中は省エネルギー設備改修や追加工事の自由度が制限されるケースが少なくありません。特に、シェアード・セイビングス契約では設備の所有権がESCO事業者側にあるため、独自の改修は難しくなるでしょう。
4. ESCO事業の導入手順
ESCO事業を導入するに当たって、事前の診断から設備管理まで複数の段階を踏む必要があります。契約内容によって手続きは異なりますが、基本的な流れは共通です。以下では、導入の流れを順を追って解説します。
4-1. 施設の予備診断・提案書の確認
まず、ESCO事業を導入する施設のESCO事業導入可能性調査を行い、省エネルギー改修の余地があるかを確認しなければなりません。
予備診断(ウォークスルー調査)では、ESCO事業者が現地を訪問し、設備の使用状況や事業環境のエネルギー消費の特徴を調査します。現状のエネルギー管理の課題や、どのような改善が効果的かを簡易的に判断する過程で、半日から1日程度で完了するのが一般的です。
調査後、ESCO事業者が予備的な提案書を作成し、改修計画の概要や想定される削減効果を提示します。この段階では、多くのESCO事業者が無料で対応しているため、導入を検討している企業や自治体にとって負担が少ないのが特徴です。
4-2. 施設の詳細診断・契約
ESCO事業の導入を決定した場合、次に施設の詳細診断を行い、最終的な契約内容を確定します。
詳細診断では、計測機器を設置してエネルギー消費の詳細データを収集し、最適な省エネルギー技術や運用方法を決定します。診断には数日から数か月かかる場合がありますが、精密なデータに基づいた計画を立てるのに欠かせないプロセスです。
診断結果をもとに、本提案書(包括的改修計画書)が作成されます。提案書に記載されるのは、主に省エネルギー設備の改修計画や資金調達方法、効果の保証内容、契約条件などです。提案内容に納得できれば、ESCO事業者と契約を結び、プロジェクトを正式にスタートします。
4-3. 設備管理・契約期間満了
工事が完了すると、ESCO事業の効果を最大化するための運用管理が始まります。
契約期間中に定期的にエネルギー消費量の削減効果を測定し、契約時に設定した省エネルギー目標の達成状況を確認するのは、ESCO事業者です。必要に応じて設備の調整やメンテナンスを行い、安定した省エネルギー効果を実現します。
契約期間が満了すると、ESCO事業は終了です。以降、省エネルギー改修による削減分はすべて顧客の利益となります。シェアード・セイビングス契約の場合は、このタイミングで設備の所有権が顧客に移り、省エネルギー対策を自由に推進できるようになります。
まとめ
ESCO事業は、業者が省エネルギー化対策を提案・実施し、その効果を保証する仕組みです。契約方法には「ギャランティード・セイビングス契約」と「シェアード・セイビングス契約」の2種類があり、それぞれリスクやコスト負担の違いがあります。メリットとしては、初期投資を抑えつつ効率的にエネルギー削減ができる点が挙げられますが、一方で契約内容や事業者選定には慎重な検討が必要です。
導入に際しては、施設の予備診断や詳細診断を経て契約を締結し、その後は設備の管理・運用を行います。契約期間満了後は、導入した設備を継続利用することも可能です。ESCO事業を活用することで、コスト削減と環境負荷の軽減を同時に実現できるため、導入を検討する際は自社に適した契約方法を選び、計画的に進めることが重要です。